やがて春が来るまでの、僕らの話。


「いたいた、はい志月、頼まれてたノートのコピー」

「お、サンキュー」

「なに、コピー?」

「律くん卒業する前に、使えそうなノートコピーしてもらってんの」

「えー、ずっるーい!律くんのノートなら、私も頭よくなれそうなのに!」

「陽菜も必要ならコピーするけど」

「いらないって、こいつ貰ったとこで使わねぇし」


柏木くんの声にブーブー文句を言う陽菜の横で、律くんって人が不意にこっちを見て目が合った。


「あれ、見ない顔だ」

「あー、転校生」


受け取ったノートをペラペラ捲りながら、若瀬くんが答えてくれる。


「律くんダメじゃん。転校生に頼み事しちゃ」

「頼み事?」

「ゲーム」

「あ、……ああ、昨日の!」


思い出してくれたのか、先輩は目を丸くした。


「転校生だったんだ、どうりで見ない顔なわけだ」

「しっかりしてよー、先輩」

「ごめんね、あんな頼み方して困ったよな?」

「あ、いえ…」

「ほんとごめん、急いでてさ、無理矢理頼んだみたいな形になって」

「いえ、そんな…」

「柏木なんて知らねーよ、聞いたこともねーよって感じだったでしょ?」

「あ、…まぁ」

「そこは否定しねぇのかよ」


ツッコんだ柏木くんが、ペットボトルにアゴを乗せてゲラゲラと笑い出す。


< 16 / 566 >

この作品をシェア

pagetop