やがて春が来るまでの、僕らの話。
「いたいた、はい志月、頼まれてたノートのコピー」
「お、サンキュー」
「なに、コピー?」
「律くん卒業する前に、使えそうなノートコピーしてもらってんの」
「えー、ずっるーい!律くんのノートなら、私も頭よくなれそうなのに!」
「陽菜も必要ならコピーするけど」
「いらないって、こいつ貰ったとこで使わねぇし」
柏木くんの声にブーブー文句を言う陽菜の横で、律くんって人が不意にこっちを見て目が合った。
「あれ、見ない顔だ」
「あー、転校生」
受け取ったノートをペラペラ捲りながら、若瀬くんが答えてくれる。
「律くんダメじゃん。転校生に頼み事しちゃ」
「頼み事?」
「ゲーム」
「あ、……ああ、昨日の!」
思い出してくれたのか、先輩は目を丸くした。
「転校生だったんだ、どうりで見ない顔なわけだ」
「しっかりしてよー、先輩」
「ごめんね、あんな頼み方して困ったよな?」
「あ、いえ…」
「ほんとごめん、急いでてさ、無理矢理頼んだみたいな形になって」
「いえ、そんな…」
「柏木なんて知らねーよ、聞いたこともねーよって感じだったでしょ?」
「あ、…まぁ」
「そこは否定しねぇのかよ」
ツッコんだ柏木くんが、ペットボトルにアゴを乗せてゲラゲラと笑い出す。