やがて春が来るまでの、僕らの話。


「律くんも仲良くしてね、ハナエと」

「ハナエちゃんっていうの?」

「そう、谷ハナエちゃん。で、こっちは倉田律(くらたりつ)くんね」


陽菜がお互いを紹介してくれたあと、倉田先輩は口元を緩めて笑った。


「うん、じゃあよろしくね」


倉田先輩の第一印象は、すごく優しく笑う人。

言葉や表情や仕草、全てに優しさが滲み出ているような、そんな人。


先輩と初めてちゃんと話したこの日。

三ヶ月後に先輩が卒業してしまうことを、少しだけ残念に思ったりした。









「ただいまー」


母親と住む小さなアパート。

夕方家に着くと、台所にいるお母さんは頭を押さえながら振り向いた。


「…あ、おかえり」


お母さんの顔色が、なんだか悪い気がする。


「具合悪いの?」

「んー、少し頭痛いだけ。風邪かな」

「え、大丈夫?薬は?」

「切らしてて…」

「じゃあ私、買ってくるよ」


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