やがて春が来るまでの、僕らの話。


「全っ然決まらない~……!」


仕事を探しだして2週間、受けた面接は見事に全滅だ。


「ドンマイ」

「もー、泣きそう……」

「はは、ドンマイ」


夕方5時。

南波くんが絵を描くアーケド下に座りこみ、ひたすら愚痴を零していた。


「早く仕事見つけないと、律くんにだって迷惑なのに……」


世の中の不景気に文句を言いたい気分だけど、そんなことを言える立場でもない。

結局は私の頑張り次第なんだろうし、今までの行いのバチが当たっているのかもしれないし。


「……やっぱり未経験ってダメなのかな」

「ん?」

「どの求人もね、経験者優遇ってのが多くて……。私どの仕事も未経験だから」


未経験ってやっぱり煙たがられるのかな。


「そんなことないよ」


南波くんは当たり前に今日も絵を描いている。

魔法みたいなその指先が、スラスラと動いて止まらない。


「どんなすごい仕事してる人だって、最初はみんな未経験からだよ。なんの経験もないからこそ、色んな可能性があるんじゃない?」


この人の言葉はふっと胸に入る。

南波くんて、どうしてこんな空気を出せるんだろう。

本当に不思議な人だな。

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