やがて春が来るまでの、僕らの話。








あの日から毎日、朝起きるとすぐ隣に温もりがある。

丁度良く2人分のスペースがあるセミダブルベッドだから、2人で寝ても窮屈になることはなくて。

むしろもっと窮屈でもいいんだけどって、頭に浮かぶその本心は、頭の中でキレイに消化させて聞こえないフリをした。

狼にだって野獣にだってなるような男の本能には、今はまだ気づかないフリをするのが賢明だ。

今はまだ、この子のことは隣で見守るだけでいい。


「んー…」

「あ、おはよう」


ゴロンと寝返りをうったハナエちゃんの体がこちらを向いて、閉じていた目がゆっくりと開いた。


「おは、よ、う……」


開いた目が再び閉じていく。

だけど起きようとモゾモゾ動く彼女の足が、布団の中で俺の足にぶつかった。


これはまずい。

どう考えたってまずい。


足と足がくっついて密着してるのに、ハナエちゃんは寝ぼけて気づかない。

そうだ、一緒に寝るようになって分かったんだ。

この子、朝が相当弱いってこと。

多分今も頭がまったく動いてなくて、ウトウトと眠りに落ちかかっている状態だ。

だったら少しぐらい触れても気づかれないだろ。

少しぐらいなら、ほっぺとか頭とか手とか二の腕とか太ももとか腰とか胸と───



「ダメだ、起きよ!」


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