やがて春が来るまでの、僕らの話。


あの頃、「実家に帰るのが怖い」って言っていた律くんがいた。

それでも年に1,2回は帰る姿に、怖いのにどうして帰るの?って聞いたことがあった。

「あの町に残してきたものがいっぱいあるから」って、律くんはそう言っていた。

「残してきたもの」っていうのは、きっと故郷に暮らす幼馴染くんたちのことだったり、陽菜ちゃんへの償いの気持ちとかなんだと思う。

だったらハナエちゃんが言う「残してきた想い」っていうのも、きっと律くんと同じものだと思うのに。

怖くても帰る律くんと、怖くて避け続けるハナエちゃんは、一体どっちが救われるのか、俺には全然分からない。

「誰にでも優しい人」と、「特別な人にだけ優しい人」と、どっちが正解か分からないのと同じで、全然分からない。

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