やがて春が来るまでの、僕らの話。
【ハナエside】
それから数日後、お店にみんなが飲みに来ている土曜日の夜。
「へぇ、ほんとに美味い」って、意外そうに言う柏木くんの声が聞こえる。
「でしょでしょ?こう見えても俺、バーテンとしては優秀なの」
「ほんとこのパスタうめぇ」
「っておい、パスタの話しかよ!」
一際賑わうカウンターには、男五人が勢揃い。
せっかくみんなが来てくれているのに、私は忙しくて全然話しも出来ずひたすら働き続けている。
「ありがとうございました」
やっと店内も落ち着いてきて、そろそろカウンターに顔を出そうかなって考えていた時。
ホールに立つ私を、誰かが呼んだ。
「谷さん……?」
振り向いて見えたのは、奥のテーブル席に座る二人のお客さんだ。
どうして私の名前、知ってるんだろう。
「谷さんだよね?高校の時に少しだけいた」
「えーと……」
高校の同級生?
高校っていっても、私三カ所も転校したから、どの高校の同級生かわからない。