やがて春が来るまでの、僕らの話。
六時間目の授業が終わり、校内にチャイムが鳴り響く。
私にとっては憂鬱な世界から抜け出せる、その合図ともいえる救いの音だ。
「帰ろ帰ろー!」
「あー寒そう、外でたくなーい」
「つーか雪降りそうじゃねぇ?」
みんなが鞄を持って、賑やかに教室を出ていく。
その声は必要以上に私の耳にまとわりついて、一層孤独の世界に追い込まれる感覚がした。
どうしよう、このままじゃ本当に馴染めない。
あと二年間、このまま一人だったらどうしよう……
「ねぇ、柏木いる?」
後ろのドアに近い私の席に、その声は聞こえた。
振り向くと、ドアから少し顔を出した男子生徒がこちらを見ている。
私に聞いてる、よね?
「えっと、…」
柏木ってどの人かわからない。
顔も名前も全然覚えていない状況だから、わかるわけがない。
「あれ、いないのか」
見渡していないことを確認したのか、男子生徒はもう一度私を見た。
「これさ、柏木に渡しといてくれない?」
「えっ」
「倉田からって言えばわかるから。じゃ、よろしくね」
「え、あの、」
爽やかに笑った男子生徒は、颯爽と廊下を歩いて行ってしまった。
「柏木って、誰……」