やがて春が来るまでの、僕らの話。




秋も終わりかけの、通学路。


帰り道、隣を歩くカッシーが、あれから初めて俺に言葉をかけてくれた。



「……志月くん」



立ち止まるカッシーは、まだ雪の降らないこの季節の空を見上げた。



「もーすぐ、冬だね……」





もうすぐだ。



もうすぐ、俺たちが1番嫌いな冬が来る……









季節は冬が訪れた。


1年前のあの冬を思い出すのはまだ怖い。


今でも鮮明に蘇ってくるから。


声だって未だに聞こえてくるから。


でも2人なら大丈夫。


冬休みには律くんも帰ってくるはずだから、3人だ。



だからきっと、大丈夫……




「律くん帰ってきたら、3人で墓参り行こうぜ」



去年の冬と同じマフラーをしているカッシーが、俺の隣で小さく笑う。




「……冬の墓参り、寒そー」










小さな町に取り残された俺たちは、思い出に怯えるように生きてきた。


冬になる度、雪が降る度、思い出す。



あの日笑っていた俺たちのこと。



あの日泣いた俺たちのこと。



まだ子供だった俺たち2人が、寄り添うように生きた高2からの人生は、振り返る今だってやっぱり怖い。



あの日、「死にたい」と呟いたカッシー。


もしあの呟きが俺に届いていなかったら……


そう想像すると恐怖はより一層強くなる。



だけど今ならわかる。



今だからこそわかるんだ。



ねぇ陽菜。



陽菜がカッシーのことをそっちに連れて行こうとしてるって、あの時はそう思ってたけど。



ねぇ陽菜。



俺、今ならわかるよ。



あの時、カッシーが呟いた声を俺にだけ聞こえるように届けてくれたのは、陽菜でしょ?



カッシーを助けてあげてって、


そっちに行こうとしてるカッシーのことを止めてって、俺にだけ教えてくれたんでしょ?


俺にカッシーを救うことはできたかな。




ねぇ陽菜。



誰もそっちに行かないように、ちゃんと見張っとくから。



もしも見落としたそのときは、もう一度、あの時みたいに教えてくれる?



まだしばらくは、誰もそっちになんかやらねぇから。



だから陽菜。



お前はそっちで少しだけでも強くなって、いつかみんなでまた会える日を楽しみにしててよ。



いつかみんなできっと会えるから。



だからそのときまで、ちゃんとそこで待ってろよ。



陽菜……



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