やがて春が来るまでの、僕らの話。



あれから1週間、律くんとは1度も会っていない。

次に会ったときにどんな顔でなにを言えばいいのか、頭の中はそればかりだ。



「いらっしゃいませ」



今日は来るかな?って、毎日毎日ドアが開くたびに心臓が跳ねるけど……

あれから1度だって来てくれない。


忙しいのか、もしかして逆に避けられているのか。

気になりすぎて、仕事中ぼんやりしかけるのを気合で振り払う毎日が続いている。



「ねぇ」



テーブルを拭く背中に、聞こえてきた低い声。

今日は1人で飲みに来ている若瀬くんが、ビール片手にカウンターからこっちを見ていた。


杉内くんは今休憩に入っているから、会話は自ずと2人だけのものになる。


「今日、待ってていい?」

「え?」

「仕事終わんの、待ってていい?」

「、」



あれから……


若瀬くんと柏木くんと再会してから、彼と2人だけで会うことは1度もなかった。


2人だけになるのはまだ少し怖いし、それにやっぱり緊張するから……



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