やがて春が来るまでの、僕らの話。
【ハナエside】
「……」
こんな時間にこんな公園で偶然柏木くんと会う、なんてことある?
だけど振り向いた先にいるのは紛れもなく柏木くんで、耳に当てているスマホを外した柏木くんは、そのまま着信を止めた。
「…なにしてるの」
「電話」
「いや、そうじゃなくて…」
仕事帰りなのかスーツ姿の柏木くんが、私のほうに歩いてくる。
「さっき店に行ったら律くんに捕まって、お前捜してこいって」
「え?」
私の横を通り過ぎた柏木くんは、そのまま近くにあるベンチに座った。
「なんかあったの?」
「、…」
ベンチに座ってポケットに手を突っ込んだ柏木くんが、足を組んで私を見上げている。
なにかは……あったけど。
言葉にすると余計胸が痛くなりそうだから、私は黙った。
なにも言えなくて、ただ黙った……
「座れば?」
立っているのも変かなって、少し距離を開けて座ったら……どうしてか、15歳の冬を思い出した。
あの日……お母さんの薬を買いに行ったあの日。
柏木くんの少し後ろを照れながら歩いた、高校1年生の冬。
大人になった今も柏木くんとの間にある距離は、なにも変わっていないまま。
あの日と同じくらいに空いてる距離が、今はなんだか少し気まずくて、そして怖い。
大人になって初めての柏木くんとの2人きりは、
色んな意味で、泣きそうだ……