やがて春が来るまでの、僕らの話。



柏木くんも同じなんだって、そう思った。

2人でいて陽菜のことを思い出してしまうのは、同じなんだって。


だって「あれから」って……


それが高1の冬を意味していることぐらい、どうしたってわかるから……



思い返す人生の中で、私はどれだけの幸せな時間を過ごしたんだろう。

人より少なすぎるって思うのは、ただの悲劇のヒロイン気取りなのかな。



でもやっぱり、どんなに思い返してみても……



「1回も……ない」




あれから……


陽菜が死んでから、幸せだって思ったことなんて、1度だってない。




「じゃあ…」




体勢も表情も変えない柏木くんだけど、見えた横顔は高校生じゃなかった。


今の、大人の柏木くんだ……






「じゃあ死にたいって思ったことは、何回ある?」





「、」





大人の柏木くんのその声に、胸の中がザワザワと騒ぎ出した。


ドクドクドクって、嫌な血が流れていくのを感じる……



だって柏木くん、死にたいと思うことが当たり前のように言うんだもん。


まるで今この瞬間もそう思っているように……

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