やがて春が来るまでの、僕らの話。
「水、飲む?」
「あ、うん」
立ち上がった柏木くんが、キッチンに向かった。
見渡して見える柏木くんの部屋の中は、高校生の彼の部屋と同じようにゲームが沢山置いてあった。
あの頃となにも変わらないように見える、柏木くんの独り暮らしの部屋の中。
だけどきっと全然違う。
あの頃の柏木くんとは、全然……
「はい」
「ありがとう」
水を受け取って、ごくごく飲んだ。
胃の辺りがずっとムカムカするのは、きっと二日酔いのせい。
曖昧な記憶をできるだけ思い出してみたら、相当な勢いで飲む姿が浮かんでくるから。
陽菜のことを思い出して、2人で苦しくなって悲しくなって。
そんな現実から逃げたくて、記憶を消したくて、逃げるように飲んだお酒。
……なんて、本当は違う。
本当は逃げたかったわけじゃない。
本当は、消えてしまいそうな柏木くんを繋ぎ止めたかっただけ。
1人になんて、できなかっただけ……