やがて春が来るまでの、僕らの話。



「いーよ、じゃあ帰る」

「そーして」

「けど…」

「なによ?」

「その代わり、死ぬとかもう言わないで」

「俺、そんなこと言いました?」

「言いました。陽菜のとこに逝くって言いました」

「クハハ、覚えてねー」

「……」



全然、昨日とは別人。

消えてしまいそうな昨日の柏木くんとは、全然別人に見える。


「ほんとに帰るからね」

「どうぞどうぞ」

「お邪魔しました」



無駄な心配だったのか、考えすぎだったのか。

柏木くんの態度に苛立ちと安堵を同時に感じながら、玄関へのドアを開けた。



「ハナエ」



足が止まったのは、


ただ、名前を呼ばれたから。


振り向いたら、柏木くんは床に座ってソファーに背中を預けたまま、スマホをいじってる。


全然、こっちなんて見ないのに。

見えた横顔は、昨日の柏木くんと同じ顔になっている気がした……



「俺は大丈夫だから」

「、」

「心配すんな」

「、…」


心配すんな。

そう言ったあと、柏木くんの顔がこっちを向いた。



「でもまぁ、ありがとう」



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