やがて春が来るまでの、僕らの話。



「え、どうして、」

「谷がなにもしていないのはわかってる。ちゃんと俺も納得してる」



じゃあ、なんで……



「例えお前が悪くなくても、今後もこういうことがあるのは困るんだ」

「、」

「例えばまたなにかがあったとき、お前の身元が確認できない、保障してもらえない、行方がわからない。そうなるリスクを店としては避けたいんだ」

「、…」

「身元がはっきりしない人間を雇うことは、やっぱり難しい」



なに、それ……



「だから申し訳、」


バン!!!!


勢いよく、突然ドアが開いた。


「ちょっと待ってよクマさん!!なんだよそれ!!」

「杉内、」


ドアの向こうで聞いていたのか、杉内くんが物凄い勢いでクマさんに詰め寄っていく。


「ハナエちゃんはなんもしてねぇのに、もう働けないってなんだよ!?」

「………」

「そんなん納得できない、辞めさせるならまずカバンに売り上げ入れた犯人だろ!?なんでハナエちゃんが辞めなきゃなんねんだよ!!」

「、」



飛び込んできた杉内くんが、一気にまくしたてるから……

私はもう、なにも言えない。


「わかってる、その犯人も必ず見つけて辞めてもらうことにはなるよ」

「だったら、!」

「杉内」

「……」

「ここは俺の店なんだ」

「、」

「出来るだけ、リスクは避けたいんだよ」



リスク……


私を雇うことは、リスクを背負うってこと……



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