やがて春が来るまでの、僕らの話。
「……するなよ?」
じっと、ハナエちゃんを見た。
「え、なにを?」
絶対に、してほしくない。
「昔してたみたいなこと」
男に金をもらって生活していたときに、戻ってほしくないから。
真剣な目で、それを訴えた。
「仕事が見つからないなら、また俺のとこに住んでもいい。だから、」
「律くん」
「……」
遮られてハナエちゃんを見たけど、彼女は俺のほうを見ていなかった。
すぐ横にある窓ガラスから、道行く人たちをぼんやり見ている。
「もうしないよ、二度と。あんなことしない」
「……」
「だってあんなことをしたら、きっともう会えないから…」
「会えない?」
「柏木くんにも若瀬くんにも……もう会えなくなる」
「、…」
俺の存在って、どれくらいなんだろうって。
ズシっと心に落ちた岩があまりにも重くて、眩暈みたいに視界が揺れた。
嫉妬とか無力感とかが体を覆って、彼女を今すぐどっかに連れ込んで金をもらった男たちと同じような行為をしたいって。
どうしようもない本能を、最後に振り絞った理性で必死に押し殺した……