やがて春が来るまでの、僕らの話。
「若瀬くん、いつも送ってくれてたよね」
「ん?」
「あの頃、帰り道はいつも送ってくれた」
「……」
「覚えてる?」
覚えてるよって、当たり前に返ってくるんだと思ってた。
当然じゃんって、絶対に言われるんだと思ってた。
だけど若瀬くんから返ってきた言葉は、全然違った……
「覚えてないのはお前だろ」
「え?」
前を向く若瀬くんは、視線を合わせることなく歩き続ける。
「どうせなんも覚えてねぇくせに」
歩きながら言う若瀬くんの声が、呆れたように私に向かう。
「私、あの町のことならちゃんと覚えてるよ?」
全部ちゃんと覚えてる。
忘れられないくらいに、鮮明に覚えてるよ。
「……」
「、」
私の声に、若瀬くんは足を止めた。
止まった傘の中で、彼の視線がこっちを向く……