やがて春が来るまでの、僕らの話。
「じゃあ聞くけど」
「……」
「俺と最初に喋った言葉は?」
「え、」
「俺と最初に喋った日の天気は?」
「、」
「一緒に帰った日、どんな会話した?」
「え、なにそれ、」
「ほら覚えてねぇ」
「だって、そんなの、」
「俺は覚えてるよ」
「、……」
雨の音に紛れて聞こえるのは、あの頃よりも大人になった若瀬くんの低い声……
「初めて交わした言葉もその日の天気も、2人で帰ったときにどんな話をしたのかも」
「、…」
「全部覚えてる」
暗くて雨の音しか聞こえない夜の道。
あの頃、空から降ってくるのはいつも真っ白な雪だったのに……
今、私たちの上から降るのは、
涙みたいな、冷たい雨……
「わかってる。覚えてないってことぐらい」
「、」
「見てなかったもんな、俺のことなんて」
「、…」
過去の話しのはずなのに……
どうしてだろう、胸が痛い。
どうして……
「カッシーのことしか、見てなかったもんな」