やがて春が来るまでの、僕らの話。



「この町にはもう慣れた?」

「大分慣れました。陽菜たちがいてくれて毎日楽しいおかげで、町のことも好きになれたと思います」

「そっか」


嬉しそうにそう話すハナエちゃんに、少し安心した。

お父さんがいなくても、元気そうに見えるから。


「ここ、いい町ですよね」

「そう?」

「長閑って言うか……犯罪とか事件とか、無縁そうな感じ」


小さな町だから、確かに犯罪なんてほとんどない。


ほとんど……


いや、たったひとつ、この町で起きた最悪な事件を俺たちは知っている。



「一度だけ……あるんだ、この町でも」

「え?」



思い出すのは嫌だった。

この町で起きた、あの最悪な出来事を。



気がつくと、ハナエちゃんとの別れ道まで着いていた。

俺の家は左で、ハナエちゃんの家は右方向。

話しの続きをする気は、俺にはなかった。

静かに降り続いた雪が、彼女の髪に少しだけ降り積もっている。

手でそれを払ってあげたあと、別れを告げた。


「じゃあ、またね」


そう告げて、俺は自分の道へと歩き出した……

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