やがて春が来るまでの、僕らの話。



受け取ったのは小さなゲーム機。

どうしよう、渡さなきゃだけど今いないみたいだし。

机に置いておきたいけど、どの席の人かもわからない。

教室の中のみんなはどんどん帰って行くし、早く誰かに聞いてどうにかしなきゃ帰れない。

どうしよう……



「あ、あの」


たまたまドアから入ってきた男子生徒に、咄嗟に声をかけた。

男子生徒は制服のポケットに手を入れたまま、私の前で立ち止まってくれて。


「なに?」


よく考えたら、このクラスの人とちゃんと話しをするの初めてだ。


「あの……えっと」

「うん?」

「柏木、って人」

「カッシー?あいつならもう帰ったよ」

「あ、そうなんだ」

「カッシーに用事?」

「これ、渡しといてって頼まれちゃって」

「誰から?」

「倉田、って人」

「あー、律くんね。いいよ、俺渡しとく」


私の手の中のゲーム機を取り、その人は自分の席に行ってしまった。

それを目で見送ったあと、ほっと息を吐き、私も自分の席に座り込む。


今の人、普通に話してくれた。

よかった……


「……帰ろ」


見渡すと、教室の中にはもう生徒が数人だけしかいなかった。

憂鬱な一日がやっと終わって、私も早く帰ろうと鞄を持って教室を出る。

< 4 / 566 >

この作品をシェア

pagetop