やがて春が来るまでの、僕らの話。
受け取ったのは小さなゲーム機。
どうしよう、渡さなきゃだけど今いないみたいだし。
机に置いておきたいけど、どの席の人かもわからない。
教室の中のみんなはどんどん帰って行くし、早く誰かに聞いてどうにかしなきゃ帰れない。
どうしよう……
「あ、あの」
たまたまドアから入ってきた男子生徒に、咄嗟に声をかけた。
男子生徒は制服のポケットに手を入れたまま、私の前で立ち止まってくれて。
「なに?」
よく考えたら、このクラスの人とちゃんと話しをするの初めてだ。
「あの……えっと」
「うん?」
「柏木、って人」
「カッシー?あいつならもう帰ったよ」
「あ、そうなんだ」
「カッシーに用事?」
「これ、渡しといてって頼まれちゃって」
「誰から?」
「倉田、って人」
「あー、律くんね。いいよ、俺渡しとく」
私の手の中のゲーム機を取り、その人は自分の席に行ってしまった。
それを目で見送ったあと、ほっと息を吐き、私も自分の席に座り込む。
今の人、普通に話してくれた。
よかった……
「……帰ろ」
見渡すと、教室の中にはもう生徒が数人だけしかいなかった。
憂鬱な一日がやっと終わって、私も早く帰ろうと鞄を持って教室を出る。