やがて春が来るまでの、僕らの話。



若瀬くんが何度も謝ってくるから……

温かい彼との思い出が、一気に蘇ってきて……



───“ハナエのこと、好きになってもいい?”

───“お前といると、緊張してなんもできねぇ”

───“お前らがなに言おうとコイツは転校しねぇ。嫌ならテメェらがどっか行け”

───“やっぱりハナエには、何にも辛いことなく笑っててほしいから”



「それから」



涙が滲む視界の中に、悲しそうに笑う若瀬くんが見えた……



「カッシーのこと、忘れさせてやれなくて……ごめん」

「、…」



───“カッシーのこと忘れるの、手伝うから”

───“2人でなら忘れられる、保証する”



若瀬くんが謝る度に、思い出す。

だって、忘れてなんかいないから。


私だって本当は、ちゃんと覚えているんだよ。

若瀬くんと初めて話した言葉も、天気も、帰り道にどんな話をしていたかも。


本当は全部、ちゃんと覚えているんだよ……



「ハナエ」

「、…」


あの頃の私は、きっとまだ幼すぎた。

今なら逃げたりしない。


大丈夫、ちゃんと最後まで聞けるよ。




「俺と別れてください」




「、……ッ、…」






7年間越しのさよならは、とっても切ないものだった。

悲しくて、切なくて、でも温かい。




15歳の冬。

若瀬くんがいなかったら、きっとあの町での思い出は悲しいものでしかなかった。


いっぱい助けてくれたから。


いっぱい守ってくれたから。


いっぱい隣にいてくれたから。


若瀬くんの隣にいたことだけは、温かい思い出として、全部全部、大切に残っているんだよ……



「今度こそ、お前が一番好きなやつとちゃんと幸せになって」



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