やがて春が来るまでの、僕らの話。



数日後。


「ねぇハナエちゃん」

「うん?」


一緒に仕事探そうって、杉内くんに誘われたお昼過ぎ。

本屋さんで求人雑誌を見ていたら、隣の杉内くんが本を見ながら遠慮がちに言う。


「あのさ」

「うん」

「なんかもう、時効になってそうなんだけどね」

「うん?」

「前に約束、したじゃん?」

「約束?」

「花火大会、一緒に行こう、って」

「……」

「あ、いや、忘れてたよね!うん、そうだよね!や、いいんだ別に、律くんに悪いし、あれだよね!」


焦るように求人誌を閉じた杉内くんは、それを買うのかレジへ歩き出していく。


「杉内くん、」

「いいのいいの、俺全然へーきだから!」

「、…」


忘れてた、わけではない。

もちろん覚えていたけど……


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