やがて春が来るまでの、僕らの話。
「お疲れー」
ザワザワと流れる人混みに乗って、次に登場したのは若瀬くんだった。
「若瀬くん!私清楚な女の子よね!?」
「え?あー、みっちゃん似合うじゃん、浴衣」
「きゃーーっ、ほら見ろヒデト!私、今日は若瀬くんと歩くわ!」
若瀬くんの隣にスッと入り込んだみっちゃんは、彼の腕に手を回した。
「若瀬せんせー、よく間に合ったね」
「超ダッシュで仕事片付けてきたからね」
みっちゃんを嫌がる訳でもない若瀬くんを囲んで、会話は進む。
「生徒も来てるんじゃない?」
「だろうね」
「あら~大変ね先生も。明日には超美人の彼女と花火デートしてたって噂になってるかもしれないわねぇ」
「オカマの彼女と花火デートしてたって噂になるよ、志月くん」
「あー、まぁそれはいいとして。みっちゃん、こういうことしてもカッシーの気は引けないよ」
「え~?」
「こいつの性格上、余計こじれるだけだと思う」
「ちょ、こじれるとか光男が彼女みたいな言い方になってっから」
みんなの会話を聞きながら、視線を駅の方に向ける。
「ハナエ、どうかした?」
「あ、ううん」
むっちの声に、何事もなかったように笑顔を返すけど……
おかしい。もう待ち合わせの時間を過ぎているのに。
最後の1人が、まだ来ない……