やがて春が来るまでの、僕らの話。



「こっちって、雪降らないんだっけ?」

「…うん」

「あの寒さから解放されると思うと有難いわ」

「、」



柏木くんは、昔から寒いのが苦手だったから……

雪の降らない冬を、待ち望んでいる様に見える。



「……」



“待ち望んでいる”、なんて。


そんなこと、あるわけないのに……



だって私は知っている。


悲しいことが起きたけど


辛いことが起きたけど


死にたくなるくらいの傷を負ったけど……



それでも本当は、



あの町が、



陽菜がいた、あの町が、



みんなの故郷の、雪の降る小さな町が、



柏木くんも若瀬くんも律くんも、本当はあの町が、どこよりも1番好きだってこと。



私はちゃんと、知ってるよ……




「…ハナエ」

「……」

「この間……ごめん」

「、…」



花火に照らされる柏木くんの顔は、やっぱり見れない。



「…ハナエ」



見上げた大きな花火が消えていく中で、


きっと柏木くんも、空を見上げたまま……






「……俺の傍にいてよ」







夜空に舞った花火に照らされた柏木くんが、


弱々しい柏木くんが、



初めて心を開いた瞬間だった……


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