やがて春が来るまでの、僕らの話。




「…なんだよ、これ」

「、…」




視線の先が、躊躇うより先に滲んでいく……




だって、なんで……




ねぇ、どうして……?




「ずーっと、悩んでたの」

「、…」

「個展の目玉、なんにしよーかなーって」



後ろから、南波くんの声が聞こえる。


だけど振り向けなくて、動けなくて。


ただその絵の前で、涙を堪えるしかできない……



「ハナエちゃんに出会って、雪の降る町の話を聞いて、そうだ、そんな景色にしようって思ったんだ」

「、…」

「でもみんなと過ごすうちに、やっぱなんか足りねぇなーって。だからあとから、描き足した」




まるで本当に、そこにいるみたい。




「写真、律くんに借りたんだ」




まるで本当に、生きているみたい……




「、…」




描かれた作品のタイトルは、





『希望の光』





その作品は、真っ白な雪の中であの頃みたいに笑っている、





「………陽菜」





陽菜だった……





呟いた柏木くんの声は、まるで……


まるで初恋の女の子を呼ぶように、優しかった。



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