やがて春が来るまでの、僕らの話。





<杉内side>



「お、いらっしゃい」


律くんと若瀬くんと訪ねた個展会場で、南波くんがすぐに出迎えてくれた。


「ハナエちゃんとカッシー、さっき帰ったよ」

「そっか」


最近二人を避けてるらしい律くんが、今どういう気持ちでいるのか。

そんなこと、バカな俺にはやっぱりわかんないけど。

でも南波くんの声に「そっか」って笑ってみせた律くんが、「これでいいんだ」って言っているように俺には見えて。


だからかな。

なにかを詮索することも、声を掛けることすらもできなかったんだ。









「この子が陽菜ちゃん…?」

「そう、この子が陽菜」


みんなでじっと見つめる先には、南波くんが描いた陽菜ちゃんの絵。


いつもいつも、みんなを苦しめていた女の子。

俺にとっては、初めましての女の子。


「そっくりすぎて怖っ」

「さすが南波くんだよな」


若瀬くんと律くんが、陽菜ちゃんの前で笑えているのが嬉しかった。

傷を負っている二人が、いつもみたいに笑ってくれるのが嬉しかった。



「なーんだ」


俺のその一言に、みんなの視線が集まってくる。

でもほんと、なーんだって感じ。

なんか、拍子抜けしちゃったな。


「南波くん、これって律くんに写真借りて描いたんだよね?」

「うん。写真には周りに律くんたちがいたけど、邪魔だから省いた」

「はは、省かれました」

「やっぱり、そうなんだ」

「やっぱりって?」


だって、想像した通りなんだもん。

陽菜ちゃんは、やっぱりそうだったんだよ。


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