やがて春が来るまでの、僕らの話。

<ハナエside>



三月四日、早朝。

まだ眠っている柏木くんを起こさないように、静かに部屋の窓を開けた。



「……うわ、寒い」


三月に入っても朝はまだ寒いのに、見上げた空は打って変わっての青空だ。

太陽の光をしっかり感じて、沁みるほど眩しい。


今日はとっても、いい朝だ。




ねぇ陽菜。



あれから、



陽菜に会えなくなってから、



今日で八年が経つよ……




「すいません、寒いんですけどー」


ミノムシみたいに布団にくるまっている柏木くんが、気だるそうな寝起きの声を出す。


「もー、俺が寒いの嫌いって知ってるくせになんでそういうことすっかなー」

「いいじゃん、今日はもっと寒いところに行くんだから」

「寝起きの寒さは尋常じゃなく体に悪いんすけど」

「閉めろってこと?」

「当たり前だ」

「空気の入れ替えしないとスッキリしないよ」

「スッキリしたけりゃ外に行け」

「ひど!今の絶対ひどい!」

「くはは。さて起きますかー」


強烈な寝癖をつけた柏木くんが、ミノムシから抜け出す。

あくびをしながら洗面所に向かう姿を見送ったあと、私も化粧を開始した。


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