やがて春が来るまでの、僕らの話。
「ほら、スマホ」
戻ってきた男子生徒が差し出してくれたスマホを、壁に寄ったまま受け取った。
「どうも、ありがとう」
俯きがちにしか言えなかった。
さっきの教室の中の話、きっとこの人も聞いていたから。
「気にしない方がいいよ、あーいうの」
聞こえた声に、伏せていた顔が思わず上がる。
「くだらない陰口。女子特有の、俺が一番理解不能なもの。言うなら直接言えって感じだよな」
「……」
「だからほっとけばいいよ、あーいう奴らは」
そう言い残し、私の横を通り過ぎていく。
「あ、あの!」
焦って呼び止めたら、止まった足が少しだけ振り向いてくれた。
三メートルくらいの距離を置いて、勇気を出して彼に聞く。
「名前……聞いてもいい?」
人見知りの私としては、ものすごく頑張って聞いた。
もしかしたら答えてくれないかもって思ったその質問だったけど、目が合ったあと、彼はすぐに答えてくれた。
「若瀬志月。聞いたからにはちゃんと覚えてね」
若瀬志月くん。
この町に来て、私に初めてできた友達だった。