やがて春が来るまでの、僕らの話。
聞こえた声に振り向いたら、若瀬くんが私の方に歩いてくるのが見えた。
濡れた手をハンカチで拭きながら、彼の到着を待つ。
「見た?LIME」
「あ、うん」
そうだ、落書きのせいで返信するのをすっかり忘れていた。
「一緒に帰れる?今日」
「うん、大丈夫だよ」
「そっか、よかった」
若瀬くんは安心したように、嬉しそうに笑った。
「大丈夫?あの席」
「え?」
「どうせカッシーにちょっかいかけられてんでしょ?」
「あー……そうだね」
おかげで授業なんてまったく耳に入らなかった。
成績下がりそうだな、あの席。
「あ、いた、志月くん」
若瀬くんの背中越しに聞こえたのは、女の子の声。
覗き見ると、顔を赤く染めた女子生徒が立っていた。
クラスでは見たことのない子だから、恐らくA組の生徒だ。