やがて春が来るまでの、僕らの話。



「あのね、ちょっと話があるんだけど、今少しだけいいかな……?」



立っているだけなのに、どうしようって位にその子の想いが伝わってきた。

私よりも分かりやすい子がいることに、安堵すら覚えるくらい気持ちが駄々洩れだ。


「ごめん、今こいつと話してるから」

「えっ」


今度は若瀬くんに右手を掴まれて、私の意思に関係なく廊下を歩き出していく。


「え、ちょ、ちょっと」


廊下を進むにつれ、さっきの子からぐんぐん遠ざかってしまって…



「若瀬くん、今の子可哀想だよ。ねぇ、私教室戻っとくからさ」

「ダメ、お前一人にするとまたカッシーとイチャイチャするから」

「え…」



ふてくされるように言いながら、若瀬くんは私の手を引いてただ歩く。

まるでヤキモチを妬いたみたいな言葉に、私はもう何も言えなくなって……


若瀬くんといると、いつも恥ずかしくて日本語が不自由になる。


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