やがて春が来るまでの、僕らの話。
「おはよう」
翌朝、いつも通り自分の席に座っていた私に、聞こえてきた声。
座ったまま振り向くと、ドアから入ってきた若瀬くんがこっちを見ていた。
「あ、おはよう」
Pコートにグレーのマフラーを巻いている若瀬くんは、外の空気のせいで鼻が少し赤い。
外、すごい寒かったからな。
「………」
いや、待って。そんなことより挨拶……
この学校に来て、初めておはようって言ったし、言われた気がする。
「あ、志月くんうぃーす」
進もうとしていた若瀬くんの足を止める様に、続けてドアから入ってきたのは小柄な男子生徒だ。
カーキのモッズコートを着ていて、それが妙に似合っている。
「おー、カッシーおはよ」
……カッシー?
ということは、もしかして、
「ゲーム機の?」
昨日の尋ね人の登場で、思わず口が開いてしまった。
そんな私の声に、若瀬くんは柏木くんを指さして言う。
「そうそう、こいつが噂の柏木秀人」
「なに、俺そんな噂されちゃうほど有名?」
「昨日限定でね」
「ハハ、みじけー」
私の席の後ろで、二人が楽しそうに笑っている。
そんな中にもう一つ、新しい声が加わった。
「なにー?ひで有名人なのー?」