やがて春が来るまでの、僕らの話。
キーンコーンカーンコーン
「授業、始まったよ…?」
「うん」
「戻らないの?」
「サボりって言葉はサボるためにあるんじゃねーの」
「……違うと思う」
あのあと、手を引かれたまま連れられて来たのはいつもお弁当を食べている資料室だ。
小さなこの部屋には黒いソファーが置いてあって、そこに若瀬くんはドカっと座った。
「まぁ座れって」
今更教室に戻ってもみんなの注目を浴びるだけだから、授業に出るのは諦めた。
でも若瀬くんとサボりって、どっちにしろ目立つ気がして気が引けてしまう。
「なに、その手」
少しだけ間を空けて座ったけど、落書きを見つけるのは容易い距離。
「さっき柏木くんに書かれたんだけど、全然消えなくて」
「うわ、へったくそな絵」
「でしょ?私の顔とか言うんだよ、ひどくない?」
「でもいいじゃん、下手くそすぎて笑えるし」
「え?」
「見る度笑えるじゃん、それ」
「……」
“見る度笑える”
その言葉に、今更気づく。
柏木くん……もしかして。
もしかして、嫌な記憶が残るこの手を、笑えるものにしてくれた?
わざと油性ペンで消えないようにして、手の平に違う思い出を作ってくれた?
下手くそすぎて笑えるくらいの絵で、わざと……
「、…」
また……
素直じゃない優しさだったんだ。
「ほんとわかりやすいな、お前」
「、…」