やがて春が来るまでの、僕らの話。






「は?スリッパ?」


席に着くと、早速柏木くんの視線が足元を見た。

疑問に思われないはずがないって分かってたけど、気づくの早すぎ……。


「何それ、寝ぼけて履き間違えた?」

「うん」


あまり長々と触れられたくない話題だから、敢えて否定はしなかった。

大丈夫、今日一日スリッパで乗り切って、家に帰ったら靴を洗って、明日からまた履いてくればいい。

だから今日だけ、私の足元には触れないで。


「ハナエー、トイレ行こー」

「うん、行く行く」


パタパタとスリッパの音を響かせて、私は陽菜と一緒に教室を出た。








「あいつなんでスリッパなの?」


二人が出て行った教室で、空いたハナエの席に志月くんが座り込む。


「知らね。忘れてきたんじゃね」

「どうやったら学校に置いてある靴を忘れるわけ」

「ハハ、確かに」


だとしたら、考えられる理由は絞られてくる。


「汚しちゃったか、もしくは、」

「汚されたか。だね」


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