やがて春が来るまでの、僕らの話。


三時間目の休み時間。

次は音楽の授業だから、陽菜と二人で音楽室に向かう。


「今日リコーダーのテストだねー」

「ねー、……あ!」

「ん?」

「リコーダー教室に忘れちゃった…」

「ええ!」

「ごめん、取ってくるから先行ってて」

「うん、早くねー」


忘れものに気づいたのは、授業が始まる三分前。

割と離れている教室までスリッパで取りに走るのは、意外としんどいし時間がかかる。

でも今日の授業リコーダーのテストだし、仕方ないから走るしかない。


パタパタパタパタ、


ドン!


走る廊下の角で、誰かと思い切りぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさいっ」

「いや、こっちこそ、……あれ、ハナエちゃん」

「倉田先輩!」


ぶつかったのは、倉田先輩だった。


「ごめんね、大丈夫?」

「大丈夫です、こちらこそスミマセン、急いでて」

「いや、俺もちゃんと前見てなくて」

「あ、じゃああの、急いでいるので失礼します」


先輩に深く頭を下げて、走りにくい音を響かせ廊下を再び駆けていく。


パタパタパタパタ…



「……なんでスリッパ?」


< 85 / 566 >

この作品をシェア

pagetop