やがて春が来るまでの、僕らの話。



「………………」



誰もいなくなった教室で、力が抜けるように床に座りこんだ。


なに、これ……



───“お父さんに暴力振るわれてぇ、逃げるために必死でぇ、そのためなら他人が死んでも構いませーんって感じなんでしょ?”



「…っ」



ポタっと一粒、涙が落ちた。


もう、胸が痛いのかすら分からない。


なにも分からない。



なにも……




ガラガラガラ



ドアが開く音がした。

誰かが入ってくる気配を感じる。


伏せた顔を少しだけ上げて、滲む視界の向こうを見たら……



「ハナエちゃん?さっきぶつかった時これ落としてったんだけど、……って、え。どうしたの?」



座り込んで涙を流す私は、倉田先輩の目にどう映っているんだろう。


他人が死んでも構わない女。

そう言われたって否定できない。


私のせいで死んだ人がいる。

どうしたって、その事実は変えられないから……



「ハナエちゃん…?」



先輩の気配がふっと近づいた。

私の前にしゃがみ込んで、この空気に相応しい優しい声を出してくれている。

そんな優しい声に、ポタポタと床に零れる涙は量を増していく。



どうしよう。

明日には、学校中に噂が広がっているかもしれない。

また知らない土地に転校しなくちゃいけないかもしれない。


それが怖い……



「、…ウ、…ヒック…、」



きっと先輩を困らせている。


でもどうしよう、止まらない。


涙が全然、止まらないよ……

< 88 / 566 >

この作品をシェア

pagetop