やがて春が来るまでの、僕らの話。
「………………」
誰もいなくなった教室で、力が抜けるように床に座りこんだ。
なに、これ……
───“お父さんに暴力振るわれてぇ、逃げるために必死でぇ、そのためなら他人が死んでも構いませーんって感じなんでしょ?”
「…っ」
ポタっと一粒、涙が落ちた。
もう、胸が痛いのかすら分からない。
なにも分からない。
なにも……
ガラガラガラ
ドアが開く音がした。
誰かが入ってくる気配を感じる。
伏せた顔を少しだけ上げて、滲む視界の向こうを見たら……
「ハナエちゃん?さっきぶつかった時これ落としてったんだけど、……って、え。どうしたの?」
座り込んで涙を流す私は、倉田先輩の目にどう映っているんだろう。
他人が死んでも構わない女。
そう言われたって否定できない。
私のせいで死んだ人がいる。
どうしたって、その事実は変えられないから……
「ハナエちゃん…?」
先輩の気配がふっと近づいた。
私の前にしゃがみ込んで、この空気に相応しい優しい声を出してくれている。
そんな優しい声に、ポタポタと床に零れる涙は量を増していく。
どうしよう。
明日には、学校中に噂が広がっているかもしれない。
また知らない土地に転校しなくちゃいけないかもしれない。
それが怖い……
「、…ウ、…ヒック…、」
きっと先輩を困らせている。
でもどうしよう、止まらない。
涙が全然、止まらないよ……