やがて春が来るまでの、僕らの話。

【倉田side】



この日俺は、ハナエちゃんの涙を止めることが出来なかった。

わからなくて、無知で、不器用で。

ただ一緒に授業をサボることしか出来なかった。


後から知った彼女の痛み。

聞いた時、なんで何もできなかったんだって、ただひたすらに後悔した。




今、大人になった今。

ハナエちゃんは毎日、俺の隣で眠ってる。

あの日涙を止められなかった俺も、少しは成長出来たかなって。


眠る彼女を見て、そんなことを考えてるんだ……











「え、早退?」

「うん」


四時間目の休み時間。

こいつらの音楽の授業が終わるのを、俺は一年の教室前で待っていた。

ゾロゾロと帰ってきた連中の中に志月の姿を見つけて、すぐに駆け寄ってハナエちゃんが早退したことを伝えた。


「なんかずっと泣いてて」

「は?」


なんでか志月に睨まれたから、思わず目を逸らしてしまう。


「いや、俺が見つけた時にはもう泣いてたんだけど」

「なんで?」

「なんでって聞かれても…」


なんか俺、悪いことして言い訳してるみたい。

これじゃ俺が悪者じゃん。


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