やがて春が来るまでの、僕らの話。
【柏木side】
「謝れこのクソ女!!!」
クラスメイトが言っていた場所に走って行くと、野次馬たちがわんさか集まっていた。
その中から品性の欠片もない声が聞こえて、それが陽菜の声だってことは一発で分かった。
だってこいつはいつもこうだから。
キレると頭に血が昇りすぎて、周りが見えなくなる。
そしてそれを止めることが出来るのは、彼氏の俺しかいない。
「ごめん、通してっ」
野次馬たちを掻き分けて、輪の中心へ向かって行く。
「痛ったぁ!離せ馬鹿ヂカラ女ぁ!!」
「うるせぇ!黙れこのブスがぁぁぁ!!」
これは凄まじい争いだと分かるには、十分すぎる汚い言葉が飛び交っている。
その声の主が自分の彼女ってんだから、あんま笑えないよね、これ。
人混みを掻きわけてやっと見えたのは、陽菜の上にクラスの女子が馬乗りになって髪を引っ張っている姿。
あらら、陽菜負けてんじゃん。
と思ったら。
相手の肩を掴み横にガツンと倒した陽菜は、今度は馬乗りになって相手の髪を引っ張り上げた。
お、よし、いけっ!
って応援しそうになる自分を抑えて、足を進める。