やがて春が来るまでの、僕らの話。








「で、原因は?」


資料室でイスに座りこんだ中、聞こえた律くんの声は怒りを含んでいるようで。

きっと陽菜の兄的立場として怒っているんだろう。

止めるのが俺の役目だとしたら、怒るのはこの人の役目だから。


「だって、あのムカデ女が」

「なんだよムカデ女って」

「どう見たってムカデでしょ!?あのバッサバサまつ毛!」


あぁ、まつ毛の話ね。

確かにケバイよね。

つーか重そうだよね、あのまつ毛。


「で、ムカデ女がどうしたって?」


大変だね律くん。

妹がこんなきかん坊に育っちゃって。

これじゃあ安心して卒業も出来ないね。


なーんて、まるで他人事みたいな振りしてるけど、さっきから俺の胸ん中はグチャグチャなわけ。

さっきから……律くんがあいつの早退話をしてるときから。

興味無いふりとか得意だからね、俺。



「あいつら……トイレでハナエの悪口言ってた」



少し小さくなった陽菜の声に、多分、俺の息は一瞬止まった。


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