やがて春が来るまでの、僕らの話。







ピンポーン


学校が終わってすぐ、俺たちは全員揃ってハナエが住むアパートへ向かった。

だって早退したんだから家にいるはずだって、誰だってそう思うよね。

だけど出て来たのはハナエではなくて、この人は多分、ハナエの母親だ。


「あ、こんにちは」

「……こんにちは」


ハナエの母親は少し痩せていて、ちょっと疲れた感じが見た目から伝わってくるような人だった。

例の父親の昔話を考えると疲れちゃうのも無理ないかって、そんな大人びたことが頭を過ぎる。


「あの、ハナエちゃんいますか?」

「いえ、まだ学校から帰ってきてないですけど……」

「え?」


帰ってきてない?

は?あいつどこで何してんのよ。


「あの…」


俺の母さんとは違って、ハナエの母親はほんと華奢で、押したら倒れてしまうんじゃないかってほど細かった。

俺たちを見るその目にも、どこか儚げな光が見える。


「学校のお友達…?」


心配そうなその表情は、少しだけハナエと似て見えた。


「私、ハナエの親友です!」


陽菜が張り切って答えると、おばさんは嬉しそうに笑った。


「そう、あの子友達がちゃんと出来たのね、…よかった」


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