獅子に戯れる兎のように
 ◇

「それでイライラしてるの?」

 社内食堂、時刻は十二時十分。美空が頬杖をつき、私を見ている。

「だって眼中にないって言い方だったから」

「別にいいじゃない。柚葉だって眼中にないんでしょ?それとも気になってるの?」

「……っ、まさか!」

「柚葉が感情を露にするなんて珍しいね。《《それ》》かなりきてますね」

「美空、きてますって?何が来てるの?」

 食事を早々に済ませた留空が、美空に問いかける。

 美空はズズッとラーメンを啜り、話を誤魔化す。私の背後でツンとすました声がした。

「男として意識してるってことでしょう」

「陽乃」

 陽乃はカルボナーラとサラダのセットをテーブルに置く。 女王様の登場だ。

「木崎さんを蔑ろにして、年下の社員に振り回されているなんて、私には理解し難いわ」

 美空が陽乃をチラリと見る。

「そこが柚葉と陽乃の大きな違いだね。柚葉は陽乃みたいに計算高くないから」

「あら、美空。ランチタイムに喧嘩吹っ掛ける気?」

 ジョークとも本気ともとれる二人の会話に、留空が慌てて仲裁に入る。

「二人とも……落ち着いて」

「落ち着いてます」
「落ち着いてるわ」

 二人の声が重なり、「フンッ」と美空が鼻を鳴らした。

「あの……ね」

「なによ?」

 威圧的な美空に、留空は声をすぼめる。

「今朝……遅出だったから、歯医者さんに行ったんだ」

「ふーん、虫歯でもあるの?」

「歯科検診……」

「だから、それがなに?」
< 101 / 216 >

この作品をシェア

pagetop