獅子に戯れる兎のように
「相変わらず柚葉は優等生ね。男は優等生の女を求めてないわ。そんなんだから……」

 陽乃は言葉をいいかけ、途中で濁した。言われなくてもわかっている。

 そんなんだから、男に本気で相手にされないと言いたいのだろう。

「どうしていつもこうなるのかな。楽しいランチが陽乃で台無しだよ」

 美空は棘のある言葉を吐き、チクチク陽乃を責めるが、陽乃は全く気にしていない。

 そんな時だった。
 珍しく留空の携帯電話が音を鳴らした。

 留空は携帯電話に視線を落とし、目を見開いた。今にも目玉が零れ落ちそうだ。

「どうしたの?留空?」

 美空の問い掛けにも、テンパっていて言葉にならない。

「やだ、不幸でもあったの?落ち着きなさい」

 陽乃がすかさず、水の入ったコップを差し出す。

 留空はコップを掴み、ごくごくと水を飲み干す。

 眼鏡のレンズをハンカチでゴシゴシ拭き、再び携帯電話に視線を落とした。

「どうしたの?留空」

「柚葉……」

 留空は携帯電話を私に差し出す。そこには【今日はご来院ありがとう。カルテの名前を見てすぐに気付きましたが、スタッフの手前、話し掛けることが出来なくてすみませんでした。あのパーティーで出逢った本平さんですよね。もし宜しければ、今夜お食事でもいかがですか?】

「……留空、これ望月さんだよね?」

「……うん」

「すごい、望月さん、ちゃんと留空だって気付いてたんだよ。良かったね留空」

「……うん」

 留空はもう泣いてる。
 一度しか逢っていないのに、シンデレラは王子様に恋をした……。
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