獅子に戯れる兎のように
「……危険?」

「ネコにも野生の本能があるの。私、男を見る目は、柚葉よりあるから」

 受付嬢として毎日沢山の男性と接し、私生活でもまるで逆ハーレムのように、男性を傍にはべらせている陽乃だからこそ、ピンとくるのかもしれない。

「来た来た、噂をすればなんとやら……」

 陽乃の視線の先には、日向と総務部の男性社員。

 日向はチラッと私を見ると、すぐに視線を逸らし席に着く。

 陽乃はストローをくわえ、オレンジジュースを飲みながら、日向から視線を逸らさない。

「わずか五分でもう三回見たね。向こうは狙ってるな」

「やめてよ、変な言い方」

「柚葉とカレ、寮で噂になってるらしいじゃない。部屋も隣みたいだし、バルコニーで内緒話しているみたいね」

「や、やだ。内緒話だなんて」

 どうして……そんなことまで……。

「慌てない、慌てない」

「私のイチオシは木崎さんだけど。女は安定よりも危険な匂いに弱いからね」

「……っ」

「けど、堕ちて溺れないでよ。泣くのは女なんだから」

 陽乃の言葉に反論出来ず、思わず俯く。

「お先に……」

 陽乃はストローをくわえたまま、右手をヒラヒラさせた。

 本当に魔性なんだから。
 艶っぽい仕草に、同性ながらドキドキする。

 食堂にいる男性社員は、みんな陽乃に見とれてるし。やはり男は美人に弱い。

 トレイを持ち立ち上がると、日向と視線が重なった。

 ――危険な匂い……

 学生時代の彼ならともかく、今の彼に危険な匂いなんて、私はちっとも感じないよ。
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