獅子に戯れる兎のように
 会社に行く気になれず、ずる休みを考えるなんて、社会人として失格だな。

 ◇

 翌朝、寒気がし目覚める。体の関節が痛み、喉も違和感がある。

 体温計を取り出し、熱を計ると三十八度を超していた。

 ヤバい……
 昨日雨に濡れ、本当に風邪を引いてしまったようだ。

 上司に連絡をし、病欠を告げた。食堂のおばちゃんには玄関の外に昨日の土鍋を置いておくと告げ、再び布団に潜り込む。

 常備薬は持ってないし、もう少し休んだら病院に行こう。三十分くらいうつらうつらしていると、玄関をノックする音がした。

 玄関を開けると食堂のおばちゃんだった。

 私の額に手をあて、「これは大変だ」と呟き、氷枕を用意してくれた。

「お粥置いとくね。今日は卵入ってるから。食べたら当番医に行きなさい」

 そうか……。
 今日は休日だ……。

「色々ありがとうございました」

「日向さんも心配してたよ。お大事に」

 日向も……。
 忘れてた。

 昨日……日向と……。

 いただいたお粥を少し食べ、眠りにつく。

 再び目覚めたら時刻は午前十時を回っていた。

 悪寒は収まったが体は湯たんぽのように熱く、さっきより熱は上がったようだ。

 ネットで当番医を検索し、病院に行く支度を整えタクシーを呼んだ。みんなはもう出社していて、寮は静かだった。

 病院で扁桃腺炎だと診断され、数日は高熱が続くだろうと言われた。注射を打ち薬を処方され、病院から実家に電話を掛けた。

「お母さん、三十九度あるの」

『まあ、三十九度?柚葉、一人じゃ心細いでしょう。扁桃腺炎ならすぐに熱は下がらないわ。暫く実家に戻りなさい』

「ありがとう。いいの?みんなに風邪移らないかな」

『そんなこと気にしなくていいのよ。タクシーでそのまま戻っておいで。着替えなら実家にあるから』

「ありがとう。そうさせてもらおうかな」

 寮のおばちゃんに世話を掛けるのも申し訳なくて、熱が下がるまで連続休暇を取り、暫く実家で休養することに決めた。
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