獅子に戯れる兎のように
 日向とのキスを、自分の中でキチンと整理したかったから。



 ―緑ヶ丘―

 両親と妹の住むマンション。帰宅すると玄関の鍵は開いていた。

「ただいま」

「お帰り。どう熱は?」

「まだ三十八度台。注射してもらったから、少し下がると思う」

「そう。部屋に布団敷いてあるから、早く休みなさい。ご飯は食べたの?」

「うん。寮のおばちゃんがお粥作ってくれたから」

「そう。パジャマはベッドの上に置いてあるからね」

「うん」

 実家なのに、妙に居心地が悪い。一度家を出ると、みんなそんな感じになるのかな。

 父は出勤し、妹も大学に登校し、今は母しかいない。父が帰宅すると、尚更居心地は悪くなるが、この体調だ、寮に戻る気力も失せる。

 両親が気を使って用意してくれている私の部屋。花織の荷物は片付けられ、部屋にあるのはベッドと小さなテレビだけ。

 ベッドの上に置かれた新しいパジャマに着替え、そのままベッドに倒れこむ。

「柚葉、氷枕いる?これ、スポーツ飲料。発熱した時はしっかり水分とりなさい」

 母がスポーツ飲料とコップを持って来てくれた。

「氷枕はいらない。少し寝るから」

「そうね。寝るのが一番。汗をかいたらクローゼットに新しいパジャマと下着が入ってるからね」

「わかった。お母さん色々ありがとう」

 これで日向とのキスもリセット出来るかな。ぐっすり眠って、全部忘れて、仕事に復帰しないと……。

 解熱剤の作用で、そのまま深い眠りに落ちた私。

 目覚めたらすでに夜六時を過ぎていた。
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