獅子に戯れる兎のように
 体を起こしベッドに座る。
 バッグから携帯電話を取り出すと、陽乃や美空、留空からLINEが入っていた。

【望月さんは着飾らない私を受け入れてくれたよ。また逢う約束をしたよ。柚葉ありがとう。風邪治ったら話聞いてね。】

「留空、本当にシンデレラになっちゃうのかな」

 シンデレラという言葉を発し、私にパンプスを履かせてくれた日向を思い出し、顔が火照る。

【柚葉大丈夫?風邪で連続休暇だなんて、真面目にもほどがあるよ。連続休暇は遊ぶためのもの、有給休暇で休めば良かったのに。】

 美空らしいな。

【柚葉仕事し過ぎなんじゃない?ゆっくり休養しなさい。木崎さんも心配してたよ。ていうか、木崎クリニック受診すれば良かったのに。でも、一番落ち着きないのは、年下君だけどね。】

 木崎クリニックに行けるわけないでしょう。お尻に注射したんだからね。

 落ち着きのない年下君?
 落ち着きがないのは、私の方だ。

 ドアが開き、妹が顔を覗ける。

「お姉ちゃん、大丈夫?風邪でダウンだって?」

「解熱剤で少し下がったみたい」

「そっか。お母さんがお粥かうどん作ろうかだって」

「ありがとう。うどん作ってもらおうかな」

「わかった。そう言っとく。こっちに来る?お父さん帰ってるよ」

「風邪がみんなに移ると悪いから、部屋にいるよ。お母さんに、ここに夕食運んでって言っといて」

「わかった。ああ見えて、お父さん結構心配してる。お姉ちゃん今まで病気で帰ったことないから」

 両親は3月まで地方だったし、わざわざ風邪で帰ったりしないよ。

 それに今回は……
 寮にいられない理由があるから。

 不純な気持ちをリセットするために、実家に戻ったんだ。
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