獅子に戯れる兎のように
 気分転換にテレビをつける。三十分後、トントンとドアがノックされ、ドアが開いた。

 てっきり母だと思っていたのに、顔を見せたのは父だった。

「お父さん、どうしたの」

「どうしたのはないだろう。熱はどうだ?これ、母さんが作った月見うどんだ。少しは食べなさい」

 父がわざわざ運んでくれたなんて、驚きを隠せない。

「……ごめんなさい。自分で取りに行けば良かった。熱はまだあるけど、体は少し楽になった」

「そうか、あまり無理をするな。父さんが東京にいる間くらい、親に甘えればいいんだ」

 父らしくない言葉。
 いつも厳しくて、口煩いのに。父も歳をとったのかな。

「ありがとう。熱が下がるまでゆっくりさせてもらうね」

 素直になれた私。
 これも熱のせいかも。

 ◇

 発熱から五日目、やっと平熱に下がる。関節の痛みもとれ、体は随分楽になった。

「おはよう」

「おはよう、柚葉。もう熱はいいの?」

「うん、平熱に下がった。今夜寮に戻る。明日から仕事だから」

「もう仕事に復帰するのか」

「うん、長期間休んだからね。そろそろ仕事に戻らないと」

 父が食事を終え立ち上がる。

「仕事から帰宅したら寮まで送ってやる。それまで安静にし、待ってなさい」

「ありがとう。そうさせてもらうね」

 本当は日中にタクシーで寮に帰るつもりだった。でも今朝は素直に父に甘えることにした。

「花織は?」

「もう登校したわ。大学でチアガールに入ったみたいで、最近は勉強もしないでダンスばかりしてる。他校の応援にも駆り出されるみたいよ」

「花織がチアガール?まじで?驚きだな。他校に目当ての彼氏でもいるのかな」

 私の余計な一言で、父の眉間がピクリと上がる。
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