獅子に戯れる兎のように
「やだ冗談だよ。花織の大学は女子大だよ。他校の応援って、男子なんていないでしょう」

 慌ててフォローしたが、フォローになったかどうか定かではない。

 父が出社し、母と二人でゆっくり珈琲を飲む。

「実はね、花織、彼氏が出来たみたいなのよ。父さんにはまだ内緒なんだけどね」

「嘘!?」

「静流《せいりゅう》大学に通う一歳年上、ラグビーしてるみたい。花織のルピナス女学院大学と彼の静流大学は同じ静《しずか》学園なの。だからルピナスのチアガールは、清流大学のラグビー部の応援によく駆り出されるみたいなのよ」

「やっぱりね。あの花織がいきなりチアガールだなんて、おかしいと思ったんだ」

 恋をすると、女の子は変わる。

 若いっていいな。
 私の年齢になると、交際イコール結婚を意識してしまうから。恋に一途になれる花織が、羨ましい。

 ――夜、夕食を実家で済ませ、父に寮まで送ってもらった。

 父は口数も少なく、車内での会話は途切れ途切れ。

「花織が大学卒業するまでは東京にいられそうだ。柚葉も一緒に暮らせばいいだろう」

 その話は以前にも聞いた。
 その時は素直に聞けなかったが、病み上がりのためか父の気持ちを素直に受け止めることが出来た。

「ありがとう。独身寮は一度出るともう入寮出来ないの。食堂も完備してるし、個室だし、寮費も格安だから」

「そうか」

 やんわりと断ると、父もそれ以上は強く言わなかった。

 寮の前で父の車から降りる。父を見送っていると、男子寮のドアが開いた。

「雨宮さんお帰りなさい」

「日向さん……。こんばんは」
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