獅子に戯れる兎のように
「どうしたの、その指輪」

 そんな質問するなんて、私も野暮だな。

「気がつきました?週末虹原さんと逢って……。実はプロポーズされたんです」

「プロポーズ!?」

 思わず声を上げ、周囲を見渡した。

「シーッ、まだ社内秘ですから」

 社内秘って、左手の薬指にダイヤの指輪をしていたら目立つし、自分から言いふらしているようなものだ。

「大阪に知り合いが全然いないみたいで、一人は寂しいって彼が。昨日『遠距離はもうやめないか』って言われたの」

「そう……。それでOKしたの」

「はい。秋に挙式予定で話を進めてますが、同じ会社なので、招待状送るまでは社内では秘密にしようって。雨宮さんは参列してくれますよね?チャペルだから、挙式から参列して下さいね。同じ課の先輩としてスピーチもお願いします」

「えっ……。スピーチなんて無理だよ」

 ていうか……
 随分、スピード婚だな。

 元彼の挙式披露宴だなんて、どんな顔して行けばいいの。

「絶対参列して下さいね。私の婚約者が彼だってこと、まだ誰にも言わないで下さいね」

「了解」

 日向が気になり、仕事の効率は上がらない。それなのに同じ課の後輩と元彼の挙式に招待されるなんて、最悪だ。

 ――正午、社員食堂。
 いつものメンバーが、私を待ち構えていた。

「来た、来た、柚葉」

 美空は相変わらずテンションが高い。

「もう大丈夫なの?」

「風邪はね、でも調子出なくて」

「病み上がりだから、しょうがないよ」

 そうじゃなくて……。
 色々なことが重なり、集中力が途切れてる。

「留空、眼鏡やめたの?コンタクトにしたんだ。髪も切ったんだね。可愛い、どうしたの?コンタクトは面倒臭いって言ってたのに」

 留空はほんのり頬を染めた。

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