獅子に戯れる兎のように
「やだ、柚葉まだわからないの?恋をすると女は変わるのよ」

 陽乃が色っぽい眼差しで私を見つめた。

「恋って……。望月さんと上手くいってるんだ」

「柚葉が熱で魘されている間に、留空は卒業しちゃったの」

「卒業って?」

 留空は真っ赤になり、手をパタパタさせた。

「陽乃、食堂で話さないで」

「小声で話してるから、誰にも聞こえないよ。望月さんに『眼鏡外した方が可愛いよ』って、ベッドで囁かれたみたいだよ」

「……っ、いつの間に」

「恋は一瞬で燃え上がる。打ち上げ花火みたいなものね。柚葉はまだ線香花火?それとも点火すらされてないのかな?
 私達、毎日年下君に柚葉の様子を聞かれたんだけど進展ないの?」

 毎日……
 日向が陽乃達に……。

「な……にもあるわけないでしょう」

「本当かな?柚葉が風邪を引いたくらいで連続休暇まで取り、実家に戻るなんて初めてだよね」

「それは父が東京に転勤したから」

「それだけ?吉倉さんが柚葉と年下君が親密だと吹聴してたわよ。今朝なんて、一緒にモーニング珈琲飲んだとか?」

「やめて、そんな関係じゃない。吉倉さんが話を盛ってるだけ」

「吉倉さんは年下君狙ってるからね。二人は同期だし、同じ寮だし、美男美女だし、お似合いだけど」

 陽乃はフォークにパスタをくるくると巻き付ける。

「年下君に興味ないなら、木崎さんにしなさい。留空みたいに素直になれば、一瞬で恋に堕ちるわ。ねぇ留空、恋愛ってキモチイイでしょう」

 陽乃がいうと、ちょっとエッチだな。留空はもう真っ赤っ赤だ。

 でも地味で真面目な留空が、あっさり卒業するなんて、正直驚いた。
< 119 / 216 >

この作品をシェア

pagetop