獅子に戯れる兎のように
 眼鏡も髪型も、恋に堕ちると相手好みの女性になりたいと思うものなんだよね。

「留空、良かったね」

「柚葉……。ありがとう」

 美空はトンカツにフォークを突き刺した。

「みんな結婚相手見つけるために仕事してるの?」

「美空、女性が男性と肩を並べ、キャリアを目指すことは凄いことだと思う。でも異性を求めるのは本能だよ。仕事と恋を両立してこそ、本物のキャリア。
 美空はまだ運命の男性が現れていないだけ」

「仕事と恋愛ね。私には恋は無縁だな。管理職になることしか、頭にないからね」

 美空の目指すキャリア。
 それはそれで素晴らしい。

 キャリアも結婚も目指せない私は、女として欠陥かも。

 小暮との性的なトラウマが、いまだに自分を臆病にしている。

 ◇

 終業前に、留空から珍しくメールが入る。

【柚葉、今日時間ある?夜、銀座に付き合ってくれない?】

【どうしたの?珍しいね。今夜予定ないから、いいよ。】

 留空に誘われるなんて、何か急用かな。

 仕事を終え女子ロッカールームに行くと、留空が私を待っていた。

「望月さんのお誕生日プレゼント、一緒に選んで欲しいの」

「私でいいの?あまりセンスよくないよ。陽乃の方がセンスあるかも」

「陽乃は高額なものを選びそうで……。予算的にあまり高額なもの買えないから」

 確かに、陽乃なら何十万もするような高級ブランド品を選ぶに決まってる。男の価値も女の価値も、容姿と財力で決まると思っているから。

「わかった。協力するよ」

「……それとね。色々相談に乗って欲しいの。陽乃や美空には言えなくて……」

「うん、役にたてるかわからないけど、話を聞くよ」
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