獅子に戯れる兎のように
 留空と二人だけでショッピングするなんて初めてだった。

 いつも賑やかな美空や陽乃が一緒だったから。



 ―銀座―

「ネクタイはどうかな?望月さんお洒落だから。まだ開いてるお店あるかな」

 閉店ギリギリにお店に飛び込むものの、留空はどこか上の空だ。

「留空、休日にゆっくり選ばない?もう時間遅いし、他社のデパートももう閉まってるし。当社のネクタイにしたら社員割引あるよ」

 私、本当にセンスないな。
 勤務する花菜菱デパートの商品をプレゼントするなんて、宣伝しているみたいだよね。

「ごめん、やっぱりブランドにしたら?その方が、望月さんに似合ってる」

「あのね、柚葉。本当はプレゼントより相談があるの」

 留空の真剣な表情に、プレゼント選びよりそれが本筋なんだと悟る。

「相談?ご飯食べに行こうか」

「うん」

 紳士服専門店を出て、二人でイタリアンの店に入る。女性客に人気の店だ。店内に入ると賑やかな笑い声が、あちらこちらから聞こえてくる。

 留空はカルボナーラのパスタセットを注文し、私は海老と生ハムのピザセットを注文した。

「それで、話って?」

「あのね」

 留空は周囲が空席であることを確認し、小声で話し始めた。

「柚葉……。初めての時どうだった?」

「えっ……?」

 思わず私まで周囲を見渡してしまった。留空の口からそんな話題が飛び出すとは、想定外だったから。

「私……初めてだったの。だからどうしていいのかわからなくて。望月さんに嫌われてしまったんじゃないかって……」

「留空……」

「こんなこと陽乃や美空に言えないし。成り行きでそうなったけど、あれから……連絡ないんだ」

「まだ数日しか経ってないんでしょう?焦らなくても大丈夫だよ」

「この歳で初めてだったなんて、きっと重いよね」
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